エレキ奇譚その二)

(フェンダー・シングルコイルPuフェチ)

                   エレキ親父


「エレキ奇譚」ご覧になられましたでしょうか。内容が充実しておりませんで、申し訳ございませんでした。そこで,奇譚の第二弾です。

小生は,常々テレキャス・ファンを自称しておりますが、その理由の一つにフェンダー・シングルコイルPuがあります。もともとエレキ・ギターのPuは弦振動を電気信号に変換するために、磁石にコイルを巻いたある種の発電機とも言えます。つまり,Puを形成する磁石の磁力線がコイルを貫通して磁性体である弦を通り、また磁石に戻る閉回路になっているわけです。弦が振動していない時は、磁束変化がないためコイルには誘導電流が発生しませんが、弦が振動するとコイルを通る磁束が変化し誘導電流が発生します。その微弱な電気信号をアンプで増幅して初めて、豊かなエレキ・サウンドが誕生する訳です。

しかし,ギターは楽器ですので、ただ発電すれば良いわけでは決してありません。弦の振動がただの規則正しい周波数の波形であったならば、その音は発振器から出るような機械音になってしまいます。弦振動に含まれる多数の高調波成分(倍音)で構成される波形になり、やっと音楽的な音になるわけです。その倍音を発生させる原因は、弦の振動に起因するボディおよびネック等の振動であり、それらは弦振動のみならずボディにマウントされたPuにも干渉します。よって、Puが拾う磁束変化はこれらの諸々の要素を含んだものとなるわけです。よく「これは良く鳴るギターだ。」とか言いますが、これは弦振動により、ボディおよびネックがよく共振するということでしょう。

さらにPuが発電機とするならば、当然その出力は磁束の変化量や磁力線の強さ、コイルターン数に比例します。これもまた「出力が大きいギターだ。」などとの表現になります。従いまして、Puの磁力線の強さや弦の位置が出力に大きく影響します。昔からギタリストはこの出力問題に悩まされてきました。

大昔には、ギターに求められたサウンドは、たいがいクリアー・サウンドでしたのでハム・ノイズだけが問題だったのですが,ロック・ミュージックの台頭により、ギター・サウンドには歪み系の音が要求されるようになりました。しかし、アンプの開発がミュージシャンの要求に追いつかなかったせいもあり、ギタリストはどうすればギターの出力を増して歪み系のサウンドが出せるか大いに悩みました。磁力線の強さや弦の位置が出力に大きく影響するのであれば、早い話が弦高を下げてPuに近づければ良い訳です。しかし、事は簡単ではなくて出力を増そうとしてPuの磁力を極端に強くしたり、弦をPuに近づけすぎたりしますと弦を引付ける磁力が強くなり、本来の弦振動を磁力が阻害する方向に働き、弦が振動している時間が短くなってしまったり、ピッチの変化まで起こしてしまいます。つまり,音が伸びなくなったり、妙な音になってしまう訳です。

その後、高効率(歪み系)アンプの登場により、とりあえずこの問題は棚上げになっておりました。

ところが、1987年にドナルド・A・レース氏が開発したフェンダー・レースセンサーは,この長年の問題を一気に解決してしまいました。小生はこれこそ20世紀の大発明だと思いました。(おおげさすぎました。)このPuは当然のことながら大ヒットしまして、クラプトン・モデルをはじめ、ストラトの必需品となりました。テレキャスでも、チャンキー・貝沢氏が愛用されている「徳武モデル(ドクターK・モデル)」をはじめ、様々なモデルに搭載されています。[写真‐1参照]

横道にそれますが、前述のレースセンサーはPuの磁石が単品ではなく、複数の磁石で構成され、互いに反発しながらも弦振動はしっかりキャッチするという絶妙な配置バランスになっております。よって、Puの磁力が弦を引付ける力は極端に小さいため、弦振動にまったくと言っていいほど干渉しません。つまり極限まで弦をPuに近づけることが可能となります。その結果、音の伸びを犠牲にする事なく大出力が得られるという、ギタリストにとってはまるで夢のようなPuになった訳です。しかし、このPuをバラシたら大変な状況になる事でしょう。多分元に戻せなくなるのは必定です。やめときましょう。しかしながら、小生はかなりあまのじゃくで移り気な性格のせいか、長年の夢もかなってしまえば、すぐ空しくなるのです。レースセンサの完璧さに、正直飽きてしまいました。今の小生は「やっぱ、出力が小さくて音の伸びない、昔ながらのPuがいいな。」などと思ってしまいます。(いやはや、困ったもんです。笑)

さて,本題に戻りましょう。Puの出力に関係する要因には、磁石に巻くコイルの巻数も重要なことです。今でも色々なPuで、磁石の素材と並んで巻数のことも、仕様に出てきますね。あるいは又、「誰それにPuコイルを巻き直してもらった。」などとの話しは良く聴きますよね。シングル・コイルPuでも巻数は色々あるようです。一般的に巻数を増やすことにより出力のアップが図れます。

しかし、それは際限なくとのことではなく、磁石とのマッチングが重要になってきます。又、巻数の多少はコイル抵抗の増減につながり、高域成分の増減に影響を及ぼします。したがって、実際ギターにマウントし、鳴らしてみて初めて音として、良いか悪いかの結果がでるわけです。理論や公式の介在する余地が少ないというのも、アナログな生物としての楽器の持つ味でしょうか。従いまして、Puの巻数を決定するに当たっては、何回巻いてとか何回減らしてとか、かなり気の遠くなるような実証試験を繰返すこととなります。ただ、小生の推測では、(小生は日頃から、推測で物事を解決してしまう。・・・・・)コイル巻数が多くなるとコイル抵抗とコイルのリアクタンスが増すことにより、出力に反比例して高域成分が減衰するようです。

例えば、モズライト・ギターはヴェンチャーズのノーキーさんが小出力のフェンダーに替わり使用したことで有名ですが、レコード等で聴いても、やはり音は太くて中域が協調されており、フェンダー系の繊細さは失せてしまっているようです。しかし、それはそれで、立派なヴェンチャーズ・サウンドの誕生になった訳ですからおめでたい事です。ちなみにフェンダー・ストラトのPu巻数は約8,000ターンで、モズライトは10,000ターン以上?らしいです。[写真‐2参照]

話が前後してしまいましたが、Pu界の革命というよりもギター界の革命といえば、やはりハム・バッキングPuの発明をあげざるをえません。[写真‐3参照]

1955年にギブソン社の技術者であった、セス・ラヴァー氏により開発されたハム・バッキングPuは、当時としては今のレースセンサー以上の衝撃をもって迎えられたに違い有りません。当時(もちろん小生は知りませんが)はクリアー・サウンド全盛でしたので,Puの拾うハム・ノイズにはレコーディング関係者のみならず、ギタリストも大いに悩まされていたことでしょう。ハム・バッキングPuはその問題を解決するだけでなく、出力アップまでも手中にしたのですから偉いもんですハイ。

もっとも,その大出力は後年、E・クラプトン氏の登場までは無用の長物ではありましたが。

ところで、この前、ビデオ屋さんでE・クラプトン氏の昔のビデオを見つけたので、借りてきました。クリーム時代のものもあり、懐かしかったです。それにしても、まだ眉のあった頃のクラプトンはカッコ良かったなあと思います。派手派手の衣装にサイケペイントのギブソンSGを抱えて、頭はカーリーヘアーでモミアゲ付き。眉もちゃんとあって(笑)実にカッコ良い。それで「ストレンジ・ブルー__」なんてやってる訳ですから、もてない訳が無い。歳月と言うものは残酷なものです。我が身に照らして、「現在のクラプトンのビデオ」もしんみりと見直しました。

さて、このPuの構造のつきましては、すでにご存知のとおりシングル・コイルPuとは明らかに違う点があります。1つのPuに磁石を1個と磁極を2個、コイルも2個使用しております。簡単に言えばシングル・コイルPuを二個合せたようなものです。もちろん、各コイルの巻数はシングルより少なくしてあります。(1コイル4.200ターンで、2個合計でも8,400ターン前後)

しかし、決定的な違いは、2個のPu極性(磁極)を反転させた上、逆巻きの2個のコイルをシリウスに接続している点です。それによって、外部よりのハム・ノイズは格コイルの巻方向が逆の為、各コイルに発生するハム・ノイズ波形も180度違います。

よってハム・ノイズの出力はシリウス和によりキャンセルされます。しかし、弦振動による誘導電流の波形は逆に同相となり、出力的には加算されることになります。よって、ハム・ノイズの無い大出力のPuとなるわけです。と言う事は、Puの磁力は小さくとも良いと言う事になり、弦振動に与える影響を少なく出来ると言う事です。実際、Puに鉄片等を近付けてみると明らかにシングル・コイルPuより磁力が弱いです。

このPuの特徴は、その大出力もさることながら、太くて粘り強いサウンドは、モズライトを遥かにしのぎます。どんなアンプにつないでも一聴しただけで分かるでしょう。又,そのサウンドは弾き手の技量さえも、ある程度カバーしてくれる有難いPuです。それだけ個性的な音といえます。使用ギターは、すでにご存知のとおり本家ギブソンのレスポールやSG、335等をはじめ各社、各様のモデルに搭載されそれこそ、俗に言う「グローバル・スタンダード化?」しています。

しかし,シングル・コイル・ファンを自称する小生ですから、あえて言わせてもらえれば,「誰が弾いて同じ音に聞こえる。繊細さが無い。ピっキング・アタックのニュアンスが今一つだ。太すぎる。脂ぎっている。くどい。・・・・・・・・・」と言えます。罵詈雑言ばかりで、ダブル・コイル・ファンの皆さんごめんなさい。実は、これまでの長い前振りはシングル・コイルPuを褒め称えるためのものなのです。(ながすぎるぞ。怒)

つまり、前述の裏返しが総て、シングル・コイルPuに対する賛美なわけです。(独断で,本当にごめんなさい。)もちろん、ギターの音はPuのみでなくボディによることは、先に述べたとおりです。そんな中でも、シングル・コイルPuとのベストマッチングはというと「それはテレキャスだ。」となる訳です。[写真‐4参照]

「じゃあ、ストラトではだめなの?」との意見もあるでしょうが、ボディのPu出力及ぼす影響は、絶対テレキャスの勝ちでしょう。(勝ち負けの問題ではない_と思うが?)なぜならストラトのブリッジとエンドがフローティング・ブリッジに対し、テレキャスはボディ直留めなのです。又,Puのマウントについてもストラトはプラ(セル)のピックガードにバネ又はゴム(生ゴムかも?生ゴム系は小生の専門分野です。ウム)を通したビスで宙ぶらりん留めに対し,テレキャスのリヤ側はブリッジ部を介しているとは言え、ブリッジ駒と同一の金属プレートに設置されており、フロント側にいたってはボディ直留めですからもう、ビンビンに影響を受けるわけです。(あはははは_____失礼。)

もちろん,ストラトの擁護もすれば、ボディのコンターやシンクロナイズド・トレモロをマウントする為の穴や、Puキャビティの面積の多さ等により、テレキャスより複雑な倍音が出ることは明らかです。それがあの独特なストラト・サウンドになっている訳ですが。[写真‐5参照]

又、蛇足ですがシングル・コイルPuの並列接続(俗に言うハーフ・トーン)は誠にやるせない情感を醸し出してくれますね。その点テレキャスの〈フロント+リヤ〉もサウンドは負けます。しかし、逆に〈フロント+リヤ〉の透明感溢れるクリアーなサウンドはストラトには無いものです。(アバタもえくぼ状態です。ワハハハ)なんだか、心ならずもテレキャス自慢になってしまいましたが、事はついでです。おおいに言っちゃいましょう。

テレキャスのフロントはハム防止のつもりと思われるシールド(ピカピカのカバーのことです。)のせいか,ストラトより出力こそ劣るものの甘さでは勝ってます。又,フロントについても、ただ硬さのみが強調されすぎてきましたが実はレスポールにも勝とも劣らない粘りがあるのです。(少なくとも、小生の耳にはそう聞こえる。年のせいかも?)そして、前述の〈フロント+リア〉の透明感。オブリやコードの時にご使用下さい。実によく泣けるでしょう。(自分だけかも?)それから、シングル・コイルPuの並列接続でも各Puの極性を変えてマウントすると、ハムバッキング効果が発揮されます。(但し、同極性のハーフ・トーンよりも、若干はっきりした良く締まった感じの音になってしまう弊害?あり。)

ところで、昔から一般的にテレキャスはビギナー向け等と言われて来ましたが、小生に言わせればそれは嘘だと思います。価格的には当たっているかも知れませんが。これからギターを始めようと思っているのに、テレキャスときたら出力は小さいは、音は硬くてペンペンサウンドですから。なんだか自分がエラク下手に聞こえてしまい、やる気も失せてしまう可能性があります。やはり最初はWコイルかレースセンサー付きのギターがお勧めでしょう。何年か経って耳が馬鹿になってからテレキャスを使用しましょう。きっと良い音に聞えるでしょう。(大音量でギターを弾き続けると、高周波が聴き取れなくなってしまう、と言う障害が起きやすい。小生はこの障害があります。実は、年のせいかも?)

さて、Puにも有名なギブソンのアルニコVやP‐90を始め、フェンダーでもジャガーやジャズ・マスター用Pu、その他リップスティックPuやリッケンバッカー等々あるのですが、おぢさんは詳しくは知らないのでやめておきます。

ところで、最近TVのコマーシャル(中学生ぐらいの女の子が、跳ねるようにして唄う後ろで、おかっぱ頭の女の子バンドが演奏しているプロモーションビデオ?)でよく見かける女の子バンドが、えらくカッコ良くて虜になりそうです。CDはもう出ているのでしょうか?なんというバンドでしょうか?ご存知の方がいらっしゃいましたら是非教えて下さい。(但し、小生はロリータ云々ではありません。「女性の魅力は歳に比例する。」というのが持論ですので念のため。でも、「老け専」ではありません。)よろしく、お願い申し上げます。

長々とつまらない話しにお付き合い願いまして、御礼申し上げます。今回の内容は、ごく一般的で面白味(マニア好み)に欠ける物になってしまいましたので、次回からは、いよいよ偏執狂の本領を発揮したいと考えております。(多分、ごく少数の方しか見ていただけないかも?)でわ。


  第1弾「エレキ奇譚」
  第3弾 自慰的改造のススメ
  第4弾 掟破りの改造(照れキャスター・親父カスタム)
 
第5弾 日本の2大インスト巨匠