エレキ奇譚その5

                     エレキ親父


 大変ご無沙汰致しました。最近のエレキ親父は新たに入手したギターの調整とアンプの
改造に没頭しておりまして、「エレキ奇譚」の投稿をすっかりサボっておりました。
と申しますのは言い訳で、当初の予想どおり数回の投稿にて早くもネタ切れになってしま
いました。(君イ、当然だよ。当然の結果!)
そんな訳で、今回は「手抜き工事」で失礼させて頂きます。で、小生のギター人生のきっ
かけともなった、インスト系のお話でお茶を濁させていただきます。
 ご存知のとおり我が国のエレキブームは、1965年のヴェンチャーズ・フルメンバー
来日公演により本格的となった訳ですが、今回は日本における「二大インスト巨匠」につ
いてお話を進めたいと思います。

 日本を代表するインストの巨匠と言えば、「エレキの神様」の名を欲しいままにする
内タケシ先生
(バンドは「寺内タケシとブルージーンズ」、「寺内タケシとバニーズ」等)
をおいて他には存在しません。小生も性少年(又は青少年!)時代には、先生の熱烈な信
奉者でした。どちらかと申しますれば、本家ヴェンチャーズより好きでした。先生は、当
時のエレキ排斥運動に堂々と立ち向かわれ、全国の高校を回っての赤字公演を実施してお
られましたので、エレキに興味の無い方でも一度は聴いた事があるかと思います。
 それにしても、当時は全国PTA何とかのオバ様方を中心に、まさに全国規模で「エレキ
排斥運動」が起きておりました。マスコミもこぞってエレキの害を取り上げ、世間では「エ
レキ=不良」の図式が定着しておりました。今日で言う「何とかバッシング」の数百倍の
エネルギーでしょうか。(三田佳子さんも真っ青!)寺内先生はそうした世の中の誤解を
解くべく、単身立ち上がられて日本全国、津々浦々の高校を回られ赤字公演をなさってお
られました。そうしたお陰で今日、エレキギターは存在出来たのです。(いやー頭の下が
る思いです。)
 
しかし、今にして思えば当時のPTAのオバサン達の方が正しいと言う気がします。や
っぱり、エレキは不良にしか似合いません。「エレキ=不良」はやっぱり「定説」です。
いやー、当時のオバサンは偉い!洞察力というか真実を見極める目があったのでしょう。
ですから、今の小生には寺内先生のあの偉業は、どこか「滑稽なドンキホーテ」を思わせ
ると言ったら失礼かもしれませんが、そのような感じがします。ただ、世の中からエレキ
バッシングが無くなったのは事実です。(あのまま、エレキ禁止令が長く存続していたな
らば、逆にエレキ親父の出る幕もあったのにと、少々残念な気もします。アホか?)
 さて、先生の業績は、広く世にエレキの素晴らしさを知らしめたという偉業の他、エレ
キ奏法や第一楽器としての可能性を追求され、今日のギター奏法の基礎を作ったと言えま
す。(最近は基本を忘れ、どんどん退化しているような気がして残念ですが!)
ともかく、先生は誰が何と言っても、「よくは解らないが、とにかく偉い!」のです。
先生のギターは
モズライト・ギターの「無歪み音」の究極とも言えるもので、小生はヴェ
ンチャーズの「やや歪み系の音」より美しくて好きです。特にアルバム「正調寺内節」あ
たりの音が良いです。
 中域の効いた暖かい音(高域が出てないとの意見もありますが)は、モズライト・ギター
の本来の音と言えるでしょう。先生の最大の特徴はいわゆるトレモロ弾きと言うか、倍速
弾きとでも言いましょうか、早弾きにつきます。しかも、ピッキングストロークが非常に
大きい様に見えるのです。一本の弦をトレモロ弾きしているのに、ストロークは1弦から
6弦まであるように見えます。ちょうど三味線のバチ弾きのような感じです。それから、
ヴェンチャーズでおなじみの「テケテケテケ・・」も特殊で左手の四指を交互に動かしな
がら下がって行くと言った、非常に高度な弾き方でとても素人には真似出来ません。トレ
モロアームの使い方も時には美しく時にはワイルドにと、まるで魔法のようです。また特
殊な「ブリッジ後方弾き」も非常に正確な音で、何かのエフェクターをかけたノーマル弾
きかと思ってしまう程です。

 しかし、先生とて人間です。長所もあれば短所もあります。
とにかく、日本の第一人者としての自覚が強すぎてか、かなりの放言僻があるようです。
また、フレーズ等も見方によってはかなり臭く、受け付けない方も多いと思います。
(小生はその臭いワンパターンさが良いと思うのですが!)もちろん、カントリー畑から
出てこられた方のせいもあってか、ブルース臭さとは無縁のものです。よって、ロック系
のアドリブはいま一つ付いて行けないものがあります。しかし、インストのアドリブでは
大筋がキッカリ決まっていて、それを正確に弾く事が正しい訳ですから、感情にまかせて
毎回違うプレイになるロックやブルースと比較するのが間違いでしょう。
それから、独特のリズム感(節回し=寺内節ともいう)により演歌のように、バックのリ
ズムから意識してズレル奏法もあります。ですから、リズムキープに厳しい方に言わせる
と、「こりゃー間違いだ!」と誤解される場合もあります。
 でも、メロディ弾きは非常に美しく、かつ表情豊で(顔の表情も変わるのです。)小生
は大好きです。ノン・リバーブ系、リバーブ系、エコー系のどれをとっても、それぞれの
美しさが最大限に引き出されております。

 先生の演奏はどれも好きですが、やはり初代のブルージーンズ時代が一番好きです。一
般的に代表的曲を上げるならば、「津軽じょんから節」や「レッツゴー運命」などになり
ますが、小生はアルバム「正調寺内節」のものは全部が好きです。(内容は全部日本民謡
であります。)また、モズライトの音で言えばアルバム名は忘れたのですが、昭和44年頃
のソロアルバムの中の「第三の男」や「テネシーワルツ」などは「モズライトのクリアー
サウンドはこれだ!」と言うぐらいの美しさです。さらに、先生は指弾きも得意で、「禁
じられた遊び」のようなガットギターの曲すらも、エレキでこなしています。ピックを手
の平に収納し指弾きをするかと思えば、魔法のようにさっとピックを出してピック弾きに
移行したりで、千変万化であります。先生はまた、エレキという楽器にも造詣が深くて、
なにせ少年時代にエレキを自作されたそうです。しかも、レオ・フェンダーより昔に!ア
ンプ等も総て自作で電気、電子工学にも詳しいのです。日本が世界に誇れる、唯一のオリ
ジナル・ギターと言える
ヤマハの「ブルージーンズ・モデル」はあまりにも有名です。
いずれにせよ、名実とも
日本のトップギタリストと言ってさしつかえないでしょう。


 さて、もう一方の日本の巨匠は「幻のギターリスト」と最近紹介されている、三根信宏
先生(バンドは「井上宗孝とシャープファイブ」、「シャープファイブ」)です。
音的には、前述の寺内タケシ先生がヴェンチャーズ系なのに対し、シャドーズ的な音です。
最も、使用ギターが
グヤトーンのシャープファイブモデルですからもっともな話しです。
それに、先生は空間系のエフェクトと言いますかサウンド処理を昔から得意としておられ、
その音はシャドーズとは比較にならない程美しいです。基本的には、シングルコイルPU
のクリアサウンドをディレイ+リバーブ処理しています。(ハーフトーンも頻繁に使用し
てます。)
また、先生のピッキング位置は極端にギターのネック側(24フレット位置〜もしあった場合)
のため、リヤPUを使用していても、非常に柔らかな美しい音になります。それから、先
生の得意技はやはりアームを使用したダウンから入り、ピッキング後にアームを戻す奏法
でしょう。小生はこれを
「アイーン奏法」と読んでおります。(志村ケンのアイーンです
よ。アイーン!)
これは、最初のアームダウンをかなり極端に行うので、普通のギターではチューニングが
狂うため不可能です。やはり、シャープファイブモデルを使用するしかないでしょう。と
にかく、この「アイーン奏法」は随所に出てきます。というよりメロディー部分は、ほぼ
前編「アイーン奏法」と言って過言ではないでしょう。ディレイ+リバーブ処理と相まっ
て非常に美しい仕上がりになってます。歪み系の音に疲れている方には、一服の清涼剤に
なること請け合いです。それから先生はVOLUME奏法も大得意です。先生のVOLUME奏
法はフレーズがどんなに細かくとも、一音一音ピッキングしてから完璧にコントロールし
ており、VOLUME奏法の手本と言えるでしょう。
 ところで、前述の寺内先生もVOLUME奏法をやられますが、先生のは右手のピッキン
グ無しの左手ハンマリングオンのみで、右手はVOLUMEのコントロールだけです。これ
は、モズライトの構造上VOLUMEコントロール位置が遠く、普通のVOLUME奏法が不可
能なためです。しかし、これは実際にやってみると分かりますが、「トーシロ」には無理
です。小生もうん十年ギターを弾いてますが、これだけは未だに満足に弾けません。ちな
みに、小生は少年の頃にこの奏法をテレビ番組で見て、無い脳味噌をフル回転して出た結
論が、「あれは右手をバイオリンの弓のように滑らして音を出しているのだ!」という誠
に笑えるようなもので、後年ジミーペイジが弓弾きをやったのを知り、さらに固く思い込
んでしまいました。従いまして、しばらくはこの奏法の秘密に気付きませんでした。(イ
ヤハヤ、大間抜けな少年時代でした。)この奏法は先生のクラシック曲の中の「ペルシャ
の市場」や「ブルースター」における演奏が代表的ですが、これは涙なくしては聴けない
ほどの美しさです。

 さて、話しが横道にそれましたが、本題に戻ります。三根先生にあっても人間ですから
当然短所もあります。寺内先生同様ロック系のアドリブについてはイマイチでしょう。先
生は昔から少しジャズ系の香りのするアドリブが得意でした。(お父上は高名なジャズシ
ンガーのディック三根氏ですから、至極当然かも。)しかし、ブルース系の匂いはまった
く無く、ブルース好きからしますと、少々寂しいでしょう。それから、「ディレイ+リバ
ーブ+アイーン奏法」は非常に美しいのですが、先生の曲はほとんどがこれで、どれを聴
いても「金太郎飴」状態で出てきますから確かに飽きます。(どの曲を聴いても驚異的と
も言えるほど、ほぼ「同じ音」です。)3ヶ月に1回ほど聴くのが正しい聴き方でしょう。
代表曲は何と言っても筝曲の「春の海」でしょう。また「六段」などもやっておられ、お
正月用に是非お勧めしたいです。寺内先生がすでに「三味線」の音をやっておられました
ので、対抗して「琴」の音を選んだ訳でもないでしょうが、ともかく「エレキで琴を表現
すれば、ズバリこれだ!」と言う音です。これはまた先生の通常のピッキング位置と異な
り、極端にブリッジ寄りを弾きます。さらに例えれば「スウィープ」あるいは「ドローン」
とでも言えば良いのか、例の琴の「チャララララン」が多用されております。また琴で「弦
をグイーンと押して、また戻す奏法」(何ていうんでしょうか?)の音を出すのに、1ピ
ッキングで指を2フレットほどグリッサンドで動かす奏法もやってます。それから、先生
も寺内先生同様にトレモロの早弾きをされますが、寺内先生程のピッキングストロークは
無く派手さはありませんが、その正確さは寺内先生を凌ぐものがあります。早弾きとして
は「春の海」でのアドリブが圧巻です。18フレットから22フレットで4指を交互に動か
してキッチリとリズムの倍速引きをキープしてます。小生は16歳からコピーに挑戦して
ますが未だに出来ません。(ウーム・)全体によく制御され、計算された演奏です。知
性的とでも言いましょうか。べつに寺内先生が知性的でない、と申しているわけではあり
ませんので誤解なきよう願います。
 
小生は先生の演奏では「古賀メロディー」も好きです。それと忘れちゃいけないのが「さ
くら」です。元々、先生のギターは日本情緒がたっぷりで、特にキーボードが主旋律をと
っている時の裏目メロが絶品です。体の力が抜けてヘナヘナとしてしまうような感じにな
ります。(あれですよ。あれ!ヘナヘナヘナー)美しくもやるせない古賀メロディーを切々
と歌い上げるギターは、美空ひばりさんの歌にも似てこの世の物とも思えません。とにも
かくにも、
先生は小生の心の師であることに間違いありません。(チビまる子ちゃんの「友
蔵こころの俳句」ではない!)

 さて、日本における「二大インスト巨匠」についてお話をしてまいりましたが、両先生
の演奏は日本人に生まれ多少ともエレキが好きならば、是非一度は聴いてみても損のない
ものでしょう。特に若いミュージシャンの方には、是非聴いて欲しいと思います。
 
エレキギター本来の音の美しさや、アドリブではない決めフレーズでの多様な表現方法、
さらに各種奏法等、新しい発見がきっとあるはずです。両先生とも教則ビデオが沢山発売
されております。もし、興味が湧いて研究してみたい方は、ご購入をお勧め致します。
それから、以下は両先生のホームページのURLです。参考までに。

 
寺内先生 HP http://members.aol.com/Nabesan729/terry.htm

 三根先生 HP http://www3.gateway.ne.jp/~mine-s5/

(寺内先生のはご自身のものではなく公認HPです。三根先生のHPは御本人のものです。)
興味のある方は、ご覧ください。でわ。ごめんください。


  第1弾「エレキ奇譚」
 
第2弾 フェンダー・シングルコイルPU・フェチ
  第3弾 自慰的改造のススメ
  第4弾 掟破りの改造(照れキャスター・親父カスタム)