浜田真理子さんは気さくでとても素敵なおねえさんです。おねえさんと言っても彼女は僕より年下でありお母さんでもあるのですが。こんな書き出しで始めたのは、ライヴ終了後の打上に参加して、真理子さんからサインを頂いてちょっとお話ができて握手して・・そう、すごく印象が良かったからです。ライヴ終了後の安堵感からか、楽しそうにファンの人達と歓談している彼女の温かさが打上会場の空気を和やかなものとして、心地よい思い出に残るひと時を過ごしたのでした。
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2002年11月9日渋谷シアターコクーン、ステージにはピアノがひとつ。開演を告げるブザーが鳴る。客席は息をのんだように静まりかえっている。期待と緊張、どんな姿で表情で歌うのだろう、どんな曲を歌うのだろう、浜田真理子とはいったい何者だろう。登場を待つ。
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暗いステージ、一条のスポットライトに向かって彼女は登場した。黒いロングドレス、肩もあらわなスリムなシルエット、初めてステージに見る彼女の姿は当たり前だけどプロのシンガーそのものだ。
椅子に腰を下ろし鍵盤に指を落とす。(始まる!)聴き覚えのあるメロディーが流れ出す。「Waltz
for
Woody」だ。『mariko』に入っていたインスト曲。洒落てるな。良いオープニング曲だ。曲が終わる。ところが客席は静まりかえっている。ちょうどクラシックの演奏会で楽章と楽章の間のあの静寂。僕も含めみんなもまだ緊張が解けていなかったのかな。2曲目は「September」。『mariko』での鬼気迫る演奏が印象的な曲だ。この夜のこの曲にはハッとさせられた。曲中に"Tokyo〜"と歌い出すところが挿入され、その"Tokyo〜"がとても艶っぽい歌い方でドキンとした。ドキンとさせといて次に歌ったのがマリリン・モンローで有名な「I
wanna be loved by you」。"pooh pooh bee
doo!"って歌ってくれなかったのがチョット残念でしたが。このあたりから僕は緊張が解けてリラックスして聴けるようになりました。BBS仲間のばんばん君も書いていたけど、親戚のおねえさんのデビューライヴに来たって感じの心配まじりの緊張感があったみたいです。5曲目は「Just
when I needed you
most」とメドレーで「離別(イビョル)」が歌われた。この夜初めての日本語の歌。以前TVでキム・ヨンジャが歌ったのを聴いて以来好きだった曲で、まさかここで彼女によって歌われるとは!聴いていてジーンと胸が熱くなりました。続いても日本の曲で「白い船のいる港」。昭和歌謡の色濃い作品で、このへんは彼女の得意技?か。気怠いムードが良い感じ。一部最後の曲は「Love
for
sale」。この夜唯一のリズム物でしたね。カッコよくソウルフルにキメてステージを退く。
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浜田真理子を初めて聴いたのは今年の3月。ミュージックマガジンのちょっとした記事が気になった。インディーズで凄いシンガーがいるらしい。「浜田真理子」。調べてみたら出雲のプランクトーン・レコードというレーベルから『mariko』というアルバムが出ていた。'98年の作品だった。さっそく出雲から取り寄せ聴いてみた。それはピアノ弾き語りでほとんどが英語詞で歌われていた。初めて聴いて「何だろう?」と思った。ホントにこれって何だろうと思った。思いながら続けて3回聴いた。聴くのを止められなかった。3回目に日本語詞の曲「のこされし者のうた」に取り憑かれた。「何だろう?」と最初に感じ、これは"何ものでもない"「浜田真理子」という凄い才能なのだと気づいた。以来彼女の歌は僕の身体のなかに住み着いている。セカンドアルバム『あなたへ』が今年10月にリリースされた。全曲日本語詞によるピアノ弾き語り。この頃気づきつつある、彼女の音楽が何故にこれ程この身体に浸透してくるのか。スローでシンプル。おそくゆったりとした歌。音数の少ない優美で感傷的なピアノ。さりげなさを装いしっかりとコントロールされた歌唱。歌われるのは愛の歌。こんな彼女の音楽が僕の心を裸にする。
浜田真理子は地元島根で、自身の普通の生活スタンスを崩さずに唄っていきたいのだそうだ。おそらくライヴに接する機会も少ないだろう。
そんな彼女が渋谷で歌うのだから、僕も渋谷にやって来た。
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第二部は「純愛」から始まった。最初にCDで聴いた時"そんな中途半端な愛ならどうぞ持ってお帰りください〜"
と淡々と歌われて、は〜いゴメンナサイと尻込みしかけたっけ。「I'm
so lonesome I could
cry」をしっとりと歌い「あしくび」へ。「あしくび」の歌謡ボッサな味わいが大好き。彼女はとてもアンニュイな感じで歌った。そして新作からのナンバーを続けて歌った。"〜ここに残されたものは
幾千もの涙の粒と 静かな月の記憶"
。感動しました「月の記憶」。これは名曲です。"〜また朝が来て夜が来て かなしい笑顔の似合うひとになる"
「Fruitless
love」。これにもまいった。感動金縛り状態。ここでフッと息抜きのように(けっして彼女が抜いたわけじゃないけど)小粋なジャズ小唄風に「For
sentimental
reasons〜逢いたくて逢いたくて」をメドレーで歌う。高音がカスレて詰まったけど、これもご愛敬。僕はこれもボーカル・テクニックだと信じています。歌っている時の笑顔が素敵でした。そしてついにラストの曲「聖歌」が静かに始まった。音数を抑え一音一音を綺麗に響かすピアノのイントロ、そして彼女はゆったりと歌いだす。"
わたしはうたう そらへうたう カオスをハルモニアを あなたとうたう
"
。美しいな、この声が好きだな、また感動金縛りだ。曲が終わりふと我に返った時に思った、こんな音楽を創り出す浜田真理子っていったい「何者」だろうかと。
アンコールに応え「教訓」を歌った。加川良の「教訓」だ。彼女によって歌われたことでこの曲はスタンダードとして歌い継がれるかもしれない、なんて思ったりした。そして本当にラストの曲、「感謝の気持ちを込めて、〜あなたがいてくれるから私はなんとかやっていけるのよ〜という曲を歌います」と言ってジャズ・ナンバー「I'll
get by」を熱唱しステージを後にした。
渋谷の街は相変わらずの喧噪、でも僕に聴こえていたのは浜田真理子の歌声だけだった。
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