2001年2月21日、渋谷クラブクアトロ前路上。俺達はR.Tと握手を交わしたのだ!
『今夜のギグを聴きに来たのかい』とR.Tが言った。そう、俺達つまり俺とヒロオさんは渋谷まで来たのだ、新潟から高速バスで、R.Tのライヴのために。

この夜のライヴのことは一生忘れないだろう。ほとんど正面の最前列で立ち会った、この夜のR.T=リチャード・トンプソンの音楽は感動以上のナニカが俺の全身を貫いたような気がした。" 音楽の神様 " を見たのかもしれない。

ステージには愛用のアコースティック・ギター、ローデンを抱えたR.Tただ1人。唄とギターというシンプルな音楽表現ながら、その極致を見た思いがした。レコード等でそのギターの巧さは認識していたが、これほど凄いとは思わなかった。開いた口がふさがらないって形容がピッタリのギター・プレイだ。ピックでベース音を刻みつつ中指と薬指でリードを混ぜて弾くスタイルなんだけど、指盤をスミからスミまで使いまくり、ダイナミックにときにはナイーブにギターを響かせる。R.Tのギターの不思議というか凄いところは、普通ロック〜ポップ系のギタリストならブルースやジャズやカントリーなどのバックボーンを感じさせるものだけど、彼にはそれがない。エレキを弾いてもそう。米国ルーツ・ミュージックの影響はたしかに受けているんだけど、それらにブリティッシュ・フォークをミックスしてオリジナルなスタイル・奏法を作り上げているのだと思う。以前レココレで読んだのだが、英国のトラッドに米国のカントリーやブルーグラスの奏法を持ち込んだウィズ・ジョーンズ(残念ながらまだ聴いたことがないが)の影響や、英国ギター界の御大デイヴィ・グレアムの影響はあるように思う。

R.Tの素晴らしさは彼が「ギターの達人」に終わらないってところだ。そのギターは神業だけど、彼はシンガー・ソングライターとしても一流だし、ミュージシャンとして常にパイオニアの気概を持っている。ハデさはないけど『英国の至宝』と称されるのも当然だろう。
俺のブリティッシュ御三家はE・クラプトン、S・ウインウッド、そしてR.T 。3人に共通するのはプレイヤーとしてシンガー・ソングライターとしても一流だってのは言うまでもないが、彼等の「寂しい唄声」に特に惹かれてしまう。哀愁の歌声とでも言おうか、とにかくグッとくるのだ。この夜 "Waltzing's For Dreamers" "Wall Of Death" "Keep Your Distance" "Shoot Out The Lights" "From Galway To Graceland" といった大好きな曲をアノ「寂しい唄声」でやられたのだからタマラナイ。ほんと涙が出そうになっちゃったよ。

リチャード・トンプソン、1949年ノース・ロンドン生まれ。'68年フェアポート・コンヴェンションでデビュー。バンドの中心人物としてエレクトリック・トラッド=英国のフォーク・ロックのパイオニアとなる。その後リチャード&リンダを経てソロとなる。デビュー以来数多くのアルバムを発表するも駄作なし。

2001年2月21日、渋谷の路上でブリテンの誇り高き哀愁男と握手を交わした。そのブルーの瞳は好奇心旺盛なイタズラっ子のように輝いていた。
                         (2001.3.3 貝沢伸一)

    LONDON TO TOKYO           関口 仁彦


  「トンプソンさんですか。」
  『そうだよ。』
  「私はあなたの30年来のファンです。」
  『わー、ほんとに。そりゃーうれしい。』

何とRTことリチャード・トンプソンと固く握手を交わしたのだ。話そうとしても言葉に詰まりただただ小踊りをしていた私。RTは更に貝沢氏に近づき自ら手をさしのべ握手をしてくれた。
「今夜のギグ(ショウと言ったのかも。)は見に来てくれるのかい。」とにっこり。「イエース、(もちろん楽しみにしてますよ。→これは心の中で。)」と答えるのがせい一杯だった。たった10秒くらいの出会い、最高の気分、夢見心地の二人・・・。
それは2月21日の夕方渋谷クアトロ前の路上でのできごとだった。固くて柔らかい、冷たいようで温かい大きな手。ライヴへの期待が、モリモリと胸の中で盛り上がる。
8時からのライヴに6時から並び(オールスタンディングなので。)見事最前列確保。

 The man with a guitar ! Mr.Richard Thompson ! ! !
 というMC(これは私の心の中のMCです。)と共にいつものギターを抱え、これまたいつもの黒ずくめの衣装で現れたRT。
いうことなし。何と言うかっこ良さ。2時間たっぷり休憩なしのライヴ。待っていた時の足腰の痛みなんてどこかに飛んでいってしまったぜい。

MCは早口のロンドン訛り。わからないことだらけだったけど、泉のように次から次へと繰り出される歌とギターでもう飛びっぱなしだったよ。歌・ギター・人柄、どれをとっても言うことなし。今までのライヴの中で最高だ、と私(関口)は断言する。ライヴのレヴューは貝沢氏の秀逸なレポートがあるのでそちらを参照されたし。

個人的に一番嬉しかったことを書く。
 最後の最後、アンコールの7曲目、ああ何と何と、我が最愛のRT曲 " Galway To Graceland " を演ってくれたのだ。" Wall of Death "(これも大好きな曲だ。)が終わると後ろの方から「グレースランド!」(カタカナで。)とリクエストがとんだ。これはオフィシャル・アルバムには入っていない曲、公式ブートやコンピレーション・アルバム " Watching The Dark " (これはRTを知らない人にも、ベテランにも二食三食抜いても聴いてもらいたい超必聴のアルバムだ。)にのみ収録されている。私も初めて聴いたのは、イアン・マシューズ(RTのフェアポートでの盟友。ついでながら私のベスト・フェイバリットアーティスト。)のアルバムで、だ。
このわりとレアな曲をリクエストしてくれた日本人(感謝!)がいたことに感激、そしてこれに応えてくれたRTに総毛立つほど感動したのだった。わーっ、これやってくれるんだってね。

 エルヴィスを慕い胸にElvis,I Love You と入れ墨を入れる。家族をすてアイルランドからエルヴィスの眠るメンフィス(グレイスランド)へ飛び、キングの墓のそばに居続ける。終いには手錠をかけられ引きずり出される悲しい中年女の物語。

もう夢中で一緒に歌い目頭を熱くする中年男の姿がそこにあった。ありがとうRT ! !
こういう物語でエルヴィスへのオマージュを表現できるRT、あなたはエライ。

最後にミーハーな文章になっちまったぜ。お許しあれ。
 とまれRTを聞かずして英国ロックを語ることなかれ。乞う、バンドでの来日! ! できればRT+Danny T.+Dave Mattacks+Pete Zorn+Teddy T. ! ! 何食抜いても行くぞ。

RTにほれなおした中年男(関口)によるお粗末なレポートでした。チャンチャン。

 

  第一話 デカい音で演ろう!「BOB DYLAN LIVE 1966」より('99.7.5)
  
第二話 針を落とす・・・アナログ円盤を楽しむ


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