●2009●

 7月30-31日 雨/曇り/雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 北方謙三『楊令伝 十』読了。おっともう店を閉める時間だ。
RCサクセション『RHAPSODY NAKED』
 
俺の日本ロック70's、最後は70年代の10年間ずぅ〜っと不遇だったRCがついに大爆発した'80年4月5日久保講堂のライブ盤だ。このネイキッドにはライブ映像がDVDでプラスされていて、当時の彼等の姿、とくに清志郎の生き生きとした姿に胸が熱くなる。ピュアな心の青年ほど不良になるのは必然で、そんな青年がロックを志すのも必然で、そんなシンプルにロックンロールな生き様に俺の胸は熱くなるのだ。'70年代に日本のロックで売れっ子になって成功したのは矢沢永吉とサザンだけど、売れた以降のヤザワとサザンに、俺はロックが感じられなくなった。結局ロックでもフォークでも売れるには歌謡曲化するのが一番といった風潮だった。真っ直ぐにロックやフォークをやってた連中が売れなかったのが'70年代だった。だからピュアなロック・バンドRCの「雨上がりの夜空に」がラジオから流れてきた時、なんてかっこいいんだ!なんていかしたロックなんだ!と嬉しくなったし、この曲により人気バンドにのし上がっていった彼等に痛快さを覚えたものだった。熱心なRCファンてわけでもなかったけど、このアルバムの曲は全部知ってるし、やはり「スローバラード」にはいろんな意味で泣ける。ストーンズのミックもキースもあんなに元気だっていうのに、なんで清志郎だけ先に連れて行っちゃったんだろ。神様はイジワルだな、まったく。


 7月27-28日 曇り/雨/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 新潟県立近代美術館で「ネオテニー・ジャパン」を鑑賞。この現代アート展についての主催者からの説明では「...「neoteny=幼形成熟の意」をキーワードに、90年代以降の日本の現代美術にみられる特徴―幼さ、カワイイ、こどものような感性、マンガ、 アニメ、オタク、サブカルチャー、内向的、物語性、ファンタジー、過剰さ、日常への視線、技術の習熟、細密描写、巧みなビジュアル表現 など、日本の現実や若者の心象風景とリンクした世代のアーティストたちが生み出してきた新たな世界を多角的に読み解きます。」とありました。知っていた作家は奈良美智と村上隆くらいでしたが、いくつかの作品には見覚えのあるものもあり、とにかくとても楽しく刺激的なアート展でした。ちょっと感じたのは漫画家大友克洋との類似性。その細密な描写によるスペクタクルや飛翔する想像力の表現など。つまり大友のマンガは高度にアート性を発散させていたと後年気付いたんだけど、今回の現代アート展を見て思ったのは、世界に冠たる日本マンガ/アニメと日本現代アートは、娯楽と芸術という棲み分けがありながら(あるのかどうか?)、その垣根はとても低いということ。芸術も芸能も越境してこそ花開く、ですかね。
ムーンライダーズ『NOUVELLES VAGUES』
         『MODERN MUSIC』
 
日本のロック70's、当時ライブで見たバンド編第6回は東京一は日本一ムーンライダーズ。日本で一番好きなロック・バンド、ライダーズだけど、そのライブを初めて見たのは以外に遅くて'78年頃。当時はまだ久保講堂とか芝の郵便貯金ホールなんかでライブをやっていて、'80年過ぎた頃から渋谷公会堂でやるようになったんだよね。ライダーズがヨーロッパ・ロマンチシズム(ソフト・プログレ)からニュー・ウェイヴへ移行する時期。あのお揃いのヘルメットとコスチュームでディーヴォのようにロックしたライブが今でも印象深く想い出される。つづく


 7月26日 曇り/雨/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 梅雨の長雨...晴れないねえ。いつまで続くんだろ。この天候のせいかどうか、近辺の農家や家庭菜園ではキュウリのできがやたら良いみたいで、我が家にもあちこちからキュウリが届く。オクラとかも欲しいんだけどなあ...(笑)。
鈴木茂『BAND WAGON』
 
日本のロック70's、当時ライブで見たバンド編第5回は米西海岸ベイエリア・ファンク直送のファンキー・サウンドを颯爽とお披露目した元はっぴいえんどの鈴木茂。アルバム『バンド・ワゴン』は'75年リリース、そしてライブも'75年の日比谷野音。ライブではハックルバックというバンドを率いての登場だった。メンバーは佐藤博(kbds)、田中章弘(b)、林敏明(ds)。田中のサム・ピック奏法(チョッパー)は当時まだ珍しく、バンド少年達の話題となった。'74年頃、熱心なロック・ファンの密かなトレンドはリトル・フィートの『デキシー・チキン』だった。当時輸入盤店に日参しては『デキシー・チキン』やボズ・スキャッグスのファーストを探し求めたものだった。ぶっとくタイトなグルーヴに鋭いスライド・ギターが唸りを上げるリトル・フィートのファンキー・ロックは当時の最先端だった。そんなリトル・フィートの影響を直に受けた(LAで『デキシー・チキン』のレコーディングを見学していた!)鈴木茂のファースト・ソロ・アルバム、そして凱旋公演ともいえるハックル・バックを率いてのライブ、たしかにあの頃は新しい日本のロックが胎動していた。そしてこのアルバム収録の「八月の匂い」は、俺のバンド "サンセット・レビュー " の主要レパートリーだった。


 7月25日 曇り/雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 ホンダのスーパー・カブを車庫から引っぱり出した。約1年ぶり。ぜんぜん乗ってないせいでエンジンの調子が悪かった。父が生きていた頃は、毎日畑とか林へ乗って行っていたので調子が悪いなんてことはなかったが、やはり使っていないとだめなもんだな。おっとエンジンの下からオイル漏れしてる。
センチメンタル・シティ・ロマンス
  『センチメンタル・シティ・ロマンス』
 
日本のロック70's、当時ライブで見たバンド編第4回は名古屋から飛び出したセンチメンタル・シティ・ロマンス。このアルバムは'75年のファースト・アルバム、そして最初に見たライブも'75年で日比谷野音。彼等は今でも告井延隆、中野督夫、細井豊の3人を中心に活躍している息の長いバンドで、なんでこんなに息が長いか考えるに、演奏が上手いこととコーラスが上手いことがあるんじゃないかな。だからスタジオ・ミュージシャンとして、またツアーのバック・バンドとして加藤登紀子や竹内まりなど多くのシンガーのバックで活躍してきた。告井と中野は共にリード・ギターも巧みなので、時折聴かせるツイン・リードはかっこいい。あの頃のセンチはカラッと爽やかなウエスト・コースト・サウンドだった。まだ当時のロック・ファンの多くが洋楽のハード・ロックを聴いていた時代で、アマチュア・バンドもハード・ロックのコピーがほとんどだった。そんな頃に生で見たセンチの演奏は、アメリカン・ロック・ファンにとって良いお手本となったと思う。俺もバンドでセンチの「うちわもめ」を練習した憶えがある。ただし俺達はハーモニーがぜんぜんダメで挫折したけど(笑)。


 7月24日 曇り/雨/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 おでん屋で父ヒロシと男がビールを飲みながら...
男「うちの女房がよォ マイケル・ジャクソンが死んだら急にファンになってやんの。...天才だとか言って。...だったら生きてるうちにさっさと気付けよって...」
ヒロシ「まぁな」
男「あーあ、亭主も死んでからありがたみがわかるのかな」
ヒロシ「わかりゃいいけどな...」
   今朝の新聞4コマ「ちびまる子ちゃん」より
シュガー・ベイブ『SONGS』
 
日本のロック70's、当時ライブで見たバンド編第3回は山下達郎、大貫妙子がいたシュガー・ベイブ。このデビュー・アルバムが'75年で、俺が見たのも'75年の日比谷野音。爽やかだった〜。ステージには伊藤銀次もギターで参加してた。シュガー・ベイブは日本語のロック・バンドとして新しいタイプだった。ポップなんだけど歌謡曲じゃない、わかるかなあ? けっきょくセンスのモンダイなんだよね。たしかに演奏はイマイチだったかもしれない(俺は上手いなあと聴いてたけど)、だけど達郎と大貫妙子それぞれの曲、そしてその歌唱は絶対に新しかった。当時流行っていた売れセン・フォークのダサさに比べ、同じポップにやってもセンスの違いが歴然としていて爽快だった。達郎流ロックン・ロールの、その輪郭のはっきりした音楽からは、姿勢の正しさや志の高さが溢れ出していたと思う。でも売れなかったんだよね、シュガー・ベイブ。


 7月22-23日 曇り/晴れ  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 れいの皆既日食、NHKで中継していた硫黄島を見ていたけど、あの幻想的に発光する水平線に目を奪われた。シュールな絵画を見ているような光景。あれをナマで見ていた人達がマジうらやましい。ほんと現場で見てたら人生が変わったかも(笑)。
 松井今朝子の直木賞受賞作『吉原手引草』、文庫化待ちにて読了。巧い、この構成は見事。吉原一の花魁葛城が起こしたある事件。最初はなにもわからない。葛城を廻る人々の証言が積み重なっていく。ぐいぐい物語に引き込まれる。小千谷の縮緬問屋まで登場!魚沼弁になごむ。主役たる花魁葛城に自らを語らせることなく、葛城の物語を見事に作り出した技量に感服。江戸吉原モノは少なからず読んでるつもりだけど、これほど判りやすく親しみやすい吉原案内は初めてだった。
上田正樹とサウス・トゥ・サウス
 ウエスト・ロード・ブルース・バンド『8.8 ROCK DAY』
 
日本のロック70's、当時ライブで見たバンド編第2回は、関西から殴り込みをかけた熱いやつら。このアルバムは'74年の8.8ロック・デイの録音で、彼等のメジャー・デビューが'75年だったからまだアマチュア・バンドだった頃、だけど演奏もマナーもちろんプロそのもの。最初に彼等のライブに接したのは'75年の春、日比谷野音を沸騰させた彼等のステージは今でも強く印象に残っている。上田正樹&サウス・トゥ・サウスのステージはいつも二部構成で、最初は上田と有山淳司によるアコースティック・セット。日本語によるオリジナル・ラグ・タイム・ブルースなどをやっていて、軽妙でコミカルな味わいでとても人気があった。そして第二部はオーティス・レディング、ウィルソン・ピケットやジェイムズ・ブラウンなどの曲によるノリノリのソウル・ショー。客を煽り乗せていく上手さは、それまでの日本のロック・シーンにはなかった気がする。ウエスト・ロード・ブルース・バンドも客の乗せ方が上手かった。曲はシカゴ・モダン・ブルースが中心だったと思う。「walking the back street」は彼等が十八番としたナンバーで、お手本はリトル・ミルトン。き〜んと張り詰めた緊張感にぎんぎんのかっこよさを感じたものだった。上田正樹達もウエストロードの連中も、それまで日本のロック・バンドが"ロックの栄養素"としてちょこっとがじってみるだけだった本場のブルース&ソウルを、彼等関西勢は正攻法でやってくれた。それが凄く新鮮でかっこよかった。あの憂歌団のメジャー・デビューはこの1年後くらい。東京初見参は銀座ヤマハ・ホールで、もちろん俺も見にいった。カンタローはチャキのピック・ギターにカルピス瓶のボトルネックだったな。


 7月21日 雨/曇り/雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 どうも湿っぽくていけない....。すかっと青空、ほしいねえ。
久保田麻琴『サンセット・ギャング』
 
日本のロック70'sですが、今日からは当時ライブで見たバンドを想い出しながら聴いてみよう。先ずは久保田麻琴と夕焼け楽団。そのライブが一番印象的だった70'sバンドがこれ。タイトだけどユッタリとした横ゆれビートがじつに心地よく、レイジーでブルージーでノスタルジーなサウンドと雰囲気は最高だった。このアルバムのリリースは'74年、最初に彼等のライブを見たのは翌'75年春の日比谷野音だった。70年代頃の日本のバンドは青臭かった。意気込みがむき出しな感じのバンドがほとんどで、そこに共感を覚えたりするんだけど、久保田麻琴と夕焼け楽団はまるで違っていた。久保田の「気楽にいこうよ」ってセリフがリアルでかっこよかった。熱気充満だった野音の空気がすぅ〜とほぐれたのを想い出す。アーシーなサウンドはアメリカ南部 を思わせ、ジミー・リード風なブルースやボ・ディドリー風なリズム、ニューオリンズの3連バラードやセカンド・ライン・リズムなど、そんなセンスに滅茶苦茶影響された。昨日、俺のバンドの指針となったサウンドについて書いたが、この夕焼け楽団を外すわけにはいかないね。「しけもく暮らし」「バンバン」そして後のアルバム収録だった「バイバイ・ベイビー」「ディキシー・フィーバー」は俺達のバンドの主要レパートリーとなったから。


 7月19-20日 曇り/雨/晴れ/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 「僕らがやってることは、部品作ったり、畑を耕したりっていうことととジャンルは違いますけど、ものを作る現場、制作部なんです。でも、そうじゃない形で、お金を投資して利益を得るシステムがある。それは全然否定しないですけど、ただ、その影響は僕らにもかぶってくる。その現実や社会の構造も知らずに、愛とか夢を歌う時代はとっくに過ぎ去っていて、そうゆうこともきちんとわかりながら、愛や、夢や、希望や、自由や、っていうことを歌ったり感じたりしなければいけないっていうのが、僕の30代中盤からのソングライティングで気をつけていることです。」と福山雅治は語る。福山はそのアイドルっぽいルックスで、たしかに芸能界のアイドルとしての側面を持つ超人気者だけど、かれはずっと(ギターを抱えた)シンガー・ソングライターでもあったってことが重要だと最近感じている。『月刊カドカワ 総力特集 福山雅治』読了。
 「...「他人に必要とされたい」というテーマを持ち出したところ、「自分が自分を必要としていればいいんだ。他人に求められるなんて困っちゃうよ」...」と答えたのは忌野清志郎。自分が自分を必要としているという強い気持ち、唯我独尊とも言える孤高があったからこそ、反骨・反権力を貫くことができたんだと思う。反骨のバンド・マン、天晴れなソウル・マンであった忌野清志郎に合掌。『忌野清志郎 永遠のバンド・マン』読了。
四人囃子『ゴールデン・ピクニックス』
 金子マリ&バックスバニー『ライブ』
 本日も日本のロック70's 。四人囃子が'76年で、金子マリのが'77年のアルバムです。囃子では「カーニバルがやってくるぞ」が好きでずっとアタマの中に残ってる。ポップで愉快でスリリングで、どこか中期ビートルズの発展型にも聞こえるとこも良い。ただしこの頃の森園のギター・ソロにはフュージョン臭さが漂い初めていて、まあこれも時代だったからね。フュージョン・ブームを先導してた部分もあるわけで感覚は鋭い。鋭いといえばバックスバニーの永井充男のギターもフュージョンのギターを予見させている。この当時の新しいロック、ファンク・ロックやサザン・ロックやNYのシンガーソングライター系ロックとか、またニュー・ソウルのサウンドに影響を受けていたら、ギターも自然と後にフュージョンと呼ばれるギター・スタイルに近づくのは当然で、それが最新型だったわけだ。金子マリ&バックスバニーは、金子マリのソウルフルな歌唱をフロントに、ベース鳴瀬喜博、キーボード難波弘之、ギター永井充男といった腕利きが揃ったファンキーなロック・バンドだった。ここれ演奏されてる「最後の本音」は、当時俺が作ったバンドの指針となったナンバーで、とにかくこんなかっこいいファンキーなロックをやりたくて懸命に練習したのを想い出す。ちなみに指針となったナンバーには他にスタッフの「フーツ」と鈴木茂の「八月の匂い」があった。


 7月17-18日 曇り/雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 難波弘之、井上貴子編『証言日本のロック70's』読了。70年代の日本のロックを語るトークショーの記録です。レギュラー・スピーカーにPANTA、難波弘之、ダディ竹千代。ゲスト・スピーカーに土屋昌巳、山本恭司、岡井大二。そして司会が井上貴子。井上以外は知る人ぞ知る日本のロッカーな方々ですね。井上貴子という人は東京芸大出の大学教授ですが、なんとダディ竹千代&東京おとぼけCatsに在籍していたというから面白い人ですね。70年代のロックは俺にとっても原点なわけで、だからここで語られていることはよくわかるし肯けることだらけで嬉しくなる。そもそも70年代の日本ロックって「ど」マイナーな世界で、そんな頃急に大売れしだしたフォークへの反感はみんなけっこう持っていたんだよね。「許せるフォークと許せないフォーク」の章で難波が言ってる「フォークの皮をかぶった演歌(アリスやさだまさし)はだめっ」って気持ちはよくわかる。ついでに「ロックの皮をかぶった演歌→チャゲアス、アルフィー、B'z」ってのももっともだよな。俺なんかXジャパンの正体はウルサイ松山千春だと思ってるから(笑)。アリスやさだまさしのような売れセン・フォークについて俺なりに補足すると、彼等の歌に感動できたとしてもそれは演歌/歌謡曲的感動なんだよね。彼等は歌謡界からデビューしてもよかったわけだ。それをフォークのスタイルを真似て演歌/歌謡曲を歌い、しかも大ヒットする、このことが卑怯に思えて非常に面白くないわけだ。ああなんか血圧上がりそうだからこのへんにしとこうかな。
四人囃子『一触即発』
 『証言日本のロック70's』に寝た子を起こされちゃったので、先ずは岡井大二がドラムスだった四人囃子。'74年リリースのデビュー・アルバムで、彼等は二十歳くらいでこの日本プログレ史に輝く名作を作ってるんですね。ひたむきな情熱がびんびんと伝わってくるなあ。四人囃子のサウンドはプログレにありがちな観念的瞑想的なところが皆無で、とにかく若々しく快活。歌詞が青春してるとこも好きだし、歌ってる森園のやるせない歌声がまた良い味わいなんだよね。


 7月15-16日 晴れ/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 15日は人間ドックだった。とりあえずの結果は一年前と変わらず、つまり「太め維持」。もっと運動して!食事を減らして!間食はやめて!と言い渡され、神妙な態度で肯く私であった。" 年に一日だけ神妙な日 " の俺(笑)。
 カズオ・イシグロ『夜想曲集』読了。読んだ人を神聖な気持ちにさせるようなあの名作『わたしを離さないで』の作者による短編集。副題が「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」。たしかに音楽はある、あるけどこれはワケアリ男女とその周辺をノスタルジーを交え細やかに描いた物語。夫婦間で交わし会う「愛してる」という言葉が時に息苦しく思えるのはキリスト教社会ゆえの特徴だろうか。
友部正人『はじめぼくはひとりだった』
 1987年、ちょうど友部さんとの交流が始まった頃のアルバム。デビュー15周年記念コンサートの録音盤です。このコンサートの企画・構成は下村誠で、彼とは友部さんとまったく関係ないところで出会いがあり、惜しくも数年前に火災で亡くなった彼の詞を、今バンドの曲として演奏しているということに感慨を覚える。'87年の友部さんの新作アルバムは『6月の雨の夜、チルチル ミチルは』だったから、このコンサートで歌われた「6月の朝...」や「愛について」「ジョージア・ジョージア・オン・マイ・マインド」など今でも人気のこの曲たちは、この日新曲として歌われたわけだ。そしてこの後、友部さんと共に旅を重ね歳月を積み重ね、今の逞しく深く優しい曲へと成長したのだと思う。歌手も歌も共に年輪を刻む。ここで歌われる「一本道」は、デビュー当時の触れたら切れるような鋭い「一本道」じゃないし、今のように枯れた味わいの「一本道」でもない。時代と共に少しずつ表情を変えてきたこの名曲は、それぞれに素晴らしく感動的だ。歌の変わり様を楽しめる、そんな歳に俺もなったと言うことかもしれないけど。


 7月11-12日 雨/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 平岡正明『昭和マンガ家伝説』読了。松本零士を語る章では「...軍国少年がフケて、対戦国アメリカの芸術、軟派映画とジャズに飛びこむ過程に日本の戦後思想がある。」とまた断言。マンガを論じながらも、永久革命、ブルジョワジーとプロレタリア、ルンペン・プロレタリアート、プチブルなんて言葉がばんばん飛び出すのが平岡節。やっぱ平岡の評論は、これはひとつの(新左翼)芸能なんだと思う。こんなに楽しませてくれた評論家は平岡正明だけだったもんね。合掌...
ELVIS COSTELLO『SECRET, PROFANE & SUGARCANE』
 どうも感傷過多な歌い方に食傷ぎみだったコステロだけど『オールモスト・ブルー』の良き想い出から手が出てしまった。コステロは新宿厚生年金会館とフジロックで見ているけど、そのどちらも太った腹にテレキャスターを抱え貫禄たっぷりに歌う彼で(ライブとしてはけっこう良かったんだけどね)、デビュー時のジャズマスターを抱えたシャープなコステロを見たかったと悔いが残るなあ。さて本作、感傷過多はあるけどリラックスも感じられて歌い方じたいはこれで良しとするとあとは演奏だ。なんといってもジェリー・ダグラスのドブロが光る。渋光り。巧いなあとため息。スチュアート・ダンカンのフィドルも良いね。マンドリン、アコギ、コンバスなども加わったアコースティックなサウンドには落ち着きがある。生楽器を音響的に響かせるんじゃなく、生のままの音でサウンドを形成する手管はT・ボーン・バーネットの技ですね。渋巧い。これは輸入盤だけど、日本盤だとボーナス・トラックとしてヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「宿命の女」が入ってるとか。これが聴けないのは悔しいなあ。


 7月10日 雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 平岡正明が亡くなった。今朝新聞で訃報を知った。ちょうど平岡の『昭和マンガ家伝説』を読んでる最中なのでびっくりした。平岡正明(ひらおかまさあき)は二十歳の頃の俺にとって「ヒラオカセイメイ」として君臨していた。青二才が精一杯背伸びして社会や音楽を論じる時、平岡の力強い「独断」「断言」はいつも俺を励ましてくれたと思う。古臭い左翼・右翼を片っ端から蹴散らすこの新左翼の論客は、失礼な言い方を許してもらえば「新左翼と階級闘争を芸能化」した思想家だった。その芸能的敷居の低さから、俺にも入り込み易かったのだと思う。今読んでいる本の中の「サザエさん」を論じた章に平岡らしい断言が出てくる。「波平の禿頭の頂点に一本だけ残った毛は彼が福岡玄洋社系であったことの残光である。」!!...(笑)、わっかんないよな、ははは。磯野波平と頭山満を結びつけるなんてね。まあこんな断言でジャズを断じ、歌謡曲を断じ、美空ひばりを断じ、山口百恵を断じ、ペンで闘争し続けた平岡正明がついにこの世とおさらばをした。寂しいなあ。合掌...
ELVIS COSTELLO『SECRET, PROFANE & SUGARCANE』
 T・ボーン・バーネットをプロデューサーに迎えた新作はナッシュヴィル録音。コステロのナッシュヴィル録音といえばどうしても『オールモスト・ブルー』を想い出す。つづく


 7月8-9日 雨/曇り/雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 西川美和『きのうの神さま』読了。小説『ゆれる』では、その才気が荒れ削りのまま放射されている感じがあり、それがまた魅力だったけど、この本作はほんとよく熟して練り込まれた味わいがあり素晴らしい。彼女が監督の映画『デイア・ドクター』がらみで宣伝されてるとおり、お医者さんと患者にまつわる短編が4つ収められていますが、医者がらみでない一編「1983年のほたる」が一番印象に残った。ここではない何処かへ行きたいと漠然と思い、往復3時間の塾通いをする少女。帰りのバスでワケアリ運転手と二人きりになってからの話しがじつに巧い。全編に感じるのは登場人物と作者との距離の取り方と視線の良さ。鋭い人間観察を温かさが包み込んでるから物語がキツクない。映画監督として、そして小説家としても西川美和は凄いのだ。
DAVE MASON『CERTIFIED LIVE』
 スティーヴ・ウインウッドとエリック・クラプトンの共演アルバムが話題ですが、デイヴ・メイスンのこの'76年アルバムが出た頃はスティーヴィーよりもエリックよりも彼の方が輝いていたなあと想い出した。言わずと知れたトラフィックのメンバーであり「フィーリン・オールライト」の作者であるデイヴ・メイスン。'70年のファースト・ソロ作にして名盤の誉れ高い『アローン・トゥゲザー』からこのライヴあたりまで、ジェントルな英国人気質とアメリカ南部のロックが程良く混ざり合った素晴らしいアルバムを連発していた。曲の良さ、翳り具合に泣ける歌声、色気を感じさせるギター・ソロ、あらためてデイヴ・メイスンの良さにじみじみしちょります。自作に混じって演奏されるカバー曲、ディランの「見張塔からずっと」、イーグルスの「テイク・イット・トゥ・ザ・リミット」そしてサム・クック「悲しき叫び」の熱演が光るなあ。


 7月6-7日 雨/曇り/晴れ/雨  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』読了。柳瀬尚紀による『ダブリン市民』の新訳です。アイルランドの音楽が好きでアイリッシュ・ウイスキーが好きで黒ビールのギネスが大好きな俺にとって、ジョイスの『ダブリナーズ』は避けては通れない小説なのです。まあいつかは読みたいなと思っていた程度ですが(笑)。くだけた調子で描かれたダブリン市民の短編集で、やはり人々の喜怒哀楽に寄り添うようにウイスキーと黒ビールと音楽があるってのが俺には嬉しかった。
町田謙介『FUTURE BLUES』
 小出斉が大絶賛していたので買ってしまったベテラン・ブルースマンの新作。本人はアコギを弾いてるんだけど、カントリー・ブルースでもデルタ・ブルースでもなく妙にモダンな感じだ。ストレート・ブルースを期待してると拍子抜けするよ(笑)。タジ・マハールとかオル・ダラの名前が出てくるようなそんなフューチャー・ブルース。歌声の黒っぽさは筋金入りで、日本語詞で歌ってるんだけど、和風じゃなくてワールド・ミュージックな感じが新鮮。ストレートでダーティーなブルース・ナンバー「流木ボクシング」はかっこいいし、マジック・サムの曲をまるでジミー・クリフのように歌う歌唱力も見事だ。これは聴くほどにハマりそう。


 7月3-4日 雨/曇り/晴れ  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 『ザ・ベンチャーズ栄光の黄金時代』をパラパラ読み。ベンチャーズに対しては屈折した思いがあるんだけど、エレキ・ギター好きには避けては通れないベンチャーズだよね。ベンチャーズに関しては後から知ったことや気が付いたが多くて、例えば初期のギターはフェンダーだったとか、ギターの音がけっこうラウドで(フェンダーから高出力のモズライトに変わったから)ガレージ・ロックな風だったとか、だから改めて聴くと面白さ満載なのがベンチャーズだったりするわけですね。そして6月14日に亡くなったボブ・ボーグル、ドン・ウィルソンと共にベンチャーズの中心だったボブに合掌。テケテケテケテケ〜♪
船戸博史『通り抜けご遠慮ください』
 日本中誰もが知っている人気者福山雅治の次は、知る人ぞ知る人気者船戸博史。我等がベースマン船戸博史の新作リーダー・アルバムの登場です。ぱちぱちぱち..。関西では知る人ぞ知る(ここでも!)先鋭ジャズ・トリオ、サイツで活躍し、沖至ユニット、藤井郷子オーケストラなど数多くのジャズ・セッションをこなしながら、長谷川健一、三村京子など素晴らしいシンガー・ソングライターのアルバムをプロデュース、そしてなんといっても「ふちがみとふなと」のふなとさんとしても大活躍の船戸さんです。このアルバムはジャズど真ん中、う〜ぞくぞくするぜ。ただのスタンダード・ソングの演奏をジャズとかいって思いっきり敷居を低くしたジャズ・ブームが続いているけど、船戸のジャズはそんなにヤワじゃないし当然敷居も高い。ジャズだってロックだって、ほんとに楽しみたきゃ根性が必要なんだからね。さてメンバーだけど、船戸博史(b)、大澤香織(p)、芳垣安洋(ds,perc)、小森慶子(as,cl)。芳垣(サイツの盟友)・小森は渋さ知らズでもお馴染み、大澤は高瀬アキに師事したとあるし、だから3人とも音楽的間口は非常に広い上に先鋭的なセンスを持った人達。テーマ・メロディーの中にちょっとした諧謔性が感じられるところは、アート・アンサンブル・オブ・シカゴに似ていて好きだな。 


 7月1-2日 雨/曇り  体調・普通  アマゾン.com 自粛中!

 椰月美智子『しずかな日々』読了。椰月さん、いいですねえ。この温かさが大切なんです。「おじいさんと一緒に過ごした日々は今のぼくににとっての唯一無二の帰る場所だ。だれもが子どものころに、あたりまえに過ごした安心できる時間。そんな時がぼくにもあったんだ、という自信が、きっとこれから先のぼくを勇気づけてくれるはずだ。」小学5年生男子のきらきらしたひと夏の物語。放課後の空き地に集まる仲間たちがいいね。そしてなによりおじいさん。遊びに来た仲間たちに「ほら、これ」とお盆に載ったきゅうりとなすの漬物、そして熱いお茶。「暑いときにこそ、熱いお茶がいい」とおじいさん。はじめて見る漬物というおやつのビックリする仲間たちだけど、「うまい、うまい」とみんなたべちゃう。おじいさんの古い家の縁側と少年達の夏休み。大人になった少年は思う。「人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく」と。
福山雅治『残響』
 娘から借りて聴いてます。オトコどもの嫉妬を浴びまくっていそうな福山のような人気者に、なぜ俺が興味を持っているかといえば、それは彼がボブ・ディランの大ファンだと公言し、またギターマガジンの載るほどのギター好き青年だからですね。まあ娘がきゃあきゃあうるさいから俺も好きなふりしてコンサートに行ったりしてるうちに、あれ福山ってけっこういいね、となったりしてね。そして彼のこの新作は楽曲も良く、井上鑑によるアレンジと腕達者達による演奏にも聴き応えがあるとても良いアルバムです。40歳の福山雅治は若い頃よりずっと良い曲を書くし、50歳になればもっと良い曲を作っていそうな気もするな。このアルバムには " 望郷モード " の曲が多くて、そこに40男の哀愁がたっぷり乗っかるから、おっとウカツにも俺もしんみり聴き入ってしまった。

  わたしは その手が好きです  ただ毎日をまっすぐに生きて
  わたしたちを育て 旅立たせてくれた  あなたの その手が好きです

  わたしは この手が好きです  ほら あなたによく似ている
  わたしたちを育て旅立っていった  あなたの その手が好きです
                          「道標」より
 ラストを飾るこの曲には、ソングライター福山の、岐路に立つ男の心情が素直にでていて良いなと思う。


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月下の遊群CONTENTS
 
ロスタイムにご用心  酔んぐしなくちゃ意味ないね While My Guitar Gently Weeps